惜別 二枚の半纏

M.Hさんは最初で最後の弟子(?)でした。

決して過去の経歴や自慢話をしない方でした。
どんな経歴の人か二年くらい知りませんでした。
人伝に聞いて「ええ!.......」と驚いたものでした。

相撲の鎌倉場所でいただいた招待券が審判だった千代の富士のすぐ後ろだったり
八幡様のぼんぼり祭りに絵で参加されていたり......。
横須賀基地に招かれた時に通訳をかって出ていただいたり.......。
そうそう、エリツェンさんが川奈ホテルに来る数日前、警備の厳重のなか
堂々と交渉してホテルに入ってコーヒーを御馳走になったことや
(警備のロシア人の胸のふくらみは
トカレフか?思いだしてどきどき)...。

いつも奥様の美味しい料理の前の食前酒(マルテイニ)の美味しかったこと。
そして時の経つのも忘れ、おしゃべりと笑い。

娘にくださる手紙は茶目っ気たっぷりな絵手紙でした。

  冬のまばらなサッカー競技場で一人コートの襟を立て、ポケットに忍ばせていたスコッチを
  ちびりちびりの観戦、あこがれでした。

ずっと前に二枚の半纏を特注で作らせ、一枚を僕にくださいました。
「二枚も二十枚も値段は作るのに変わりませんよ?」と云われたそうです。
今、M.Hさんの着ていた半纏は僕がいただきました。
  
   九十七歳で天寿をまっとう。!

  洗いざらしの半纏は体になじみ、着るたびに懐かしくM.Hさんを偲んでいます。