春の長寿寺
   久しぶりに晴天の気持の良い朝だった。
   カミさんに「今頃シャガの花がとても綺麗なお寺があるので一緒に見に行
   こうよ」と誘われる。
   「12時までに帰ります」と店に張り紙をして北鎌倉の長寿寺に向かう。


    長寿寺は足利尊氏のゆかりの寺で、金、土、日の10時〜3時までしか
    開けていない。
    しかも雨降りは閉める。だから観光客が少なくゆったり散策が楽しめる。
    何といっても開放感のある日本建築の書院、茶室からの眺めが素晴らしい。
    赤い毛氈に座って座禅のまねごとをする。
    庭には新緑の紅葉がまぶしい。秋には又違った表情を見せることだろう。
    裏庭にシャガの群生、紫大根、孟宗竹の竹の子がにょっきり。
    ボタンにはつぼみがどっさりつき、次に向けてスタンバイしている。
    良い気分で長寿寺を後にする。
    北鎌倉は観光シーズンなので人が増え出してきた。
    男は時計を気にしながらも「コーヒーでも飲んでいきませんか」と女を誘う。
    むろん女は拒むことなくほほえみをうかべ男の後をついて来る。
    男は東慶寺の境内にある「吉野」という喫茶店に女の肩を押すように
    して入る。
    (あの〜男は僕で、女はカミさんです。エヘヘ....)
   店の中に見覚えのある花入れがあった。
   カミさんもあなたの作ったもののようよと言う。
   ある年の2か月くらい近くの山のいろんな蔓で籠を夢中で編んだ事があり
   当時を懐かしく思い出した。

   店の人に名前を名乗りお聞きすると、亡くなった母が15年以上前に何点か
   「おかもと」から買ったもので、気にいって今でも使わせてもらっている
   との事。
   嫁に出した娘(籠)が嫁ぎ先でずっと可愛がられてきたのを知り、親として
   こんな嬉しいことはない。

  張り紙の時間はとうに過ぎていたが、コーヒーも美味しく、心も温か。
  こんな休みのとり方も良いねと、 家路を急いだ。
  「待ちぼうけのお客さんごめんなさい!」