滑川で救出されたステッキさんのその後ですが、岡本さんご夫妻のワックス療法
などの手厚い看護で傷も殆ど癒え、元通りの色艶を取り戻しました。
ところが最近になって口数が少なくなり、元気がないので問いただしたところ
『自分は介護の道を天性の仕事と決め、誇りを持って生きてきたんだ。ところが
今の僕は岡本さんの物置で誰からも必要とされず、塵にうもれて忘れられていく
と思うとくやしくて……』と、心なしか,痩せた体をふるわせながら泣くのだそ
うです。
岡本さんが「何か救出されることを嫌がっていた風だった」とか「温泉と勘違い
してたんじゃないか」などと、言いふらしたおかげで、自分は「世間に誤解され
ている」といって又細い身をよじるのだそうです。
しかも、針谷翁のもとには、最近日本人のツエさんがよりそって散歩していたな
どの噂を耳にしたので、嫉妬の感情も加わり益々病が重くなったようです。
「自分は足があっても歩けないし、羽も無い、、、、」といって北の空(針谷宅
の方)を恨めしく見上げ、又ため息をつくのだそうです。
岡本さんも、ステッキさんの心情を察し、近々針谷翁のもとに連れて行ってあげ
るからとなだめています。
「こうなると、ステッキさんとツエさんとの確執も見ものだなー」などと岡本
さんは無責任な感想をもらしていました。
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