追っかけ旅行なのだ

若い人やおばさん達は好きなアイドルやスターの追っかけ旅行を楽しんでいるという。
時間と旅費を使って駆け付け、舞台に向ってキャーキャーあるいはウットリしているらしい。
知り合いの女の子は夜行バスで仙台まで行って感動して帰ってきた。
「んーんそうか、そういう旅行の楽しみ方もあっやのか!」おじさんだってやってみたい。
ところが追っかけたいアイドルやスターが思いつかない。
でも、ありました。
落語家の立川志の輔です。
「そうだ、志の輔を追っかけよう」
渋谷のパルコや横浜の賑わい座などの近くでは旅行にならない。
チケットピアで調べたら、2月20日岐阜市で「分枝、志の輔 春待ち二人会」というのを見つけた。
さっそくチケットをゲットした。
落語は仕事をしながら聞いている。
志の輔は古典も上手いが創作落語はもう・・・絶品!
分枝の創作落語も短編小説のような独特な味わいで面白い。
追っかけ旅最高!
舞台に向ってキャーキャーの代わりにゲーラゲラなのだ。

当日、新幹線と東海道線を乗り継いでお昼ごろ岐阜駅に到着。
「昼間は観光、夜は落語鑑賞という一日に二度美味しい旅です」
駅中にある観光協会のお姉さんに事情を話し相談すると親切にケーブルカー、岐阜城入場券付きバス乗り放題1500円というチケットを薦められる。

岐阜城は斎藤道三、織田信長などの居城として有名だ。
金華山という山頂にありケーブルカーに乗って行く。
難攻不落の山城らしく険しい山の頂に建っていた。

途中の岩肌の断層から、大昔はここは海の底だったとか、不思議!
ぜひテレビの「ぶらタモリ」でタモリさんに来てもらいたいと思う。

天守閣からの眺めが素晴らしい。
長良川や美濃平野、信長の野望はこの場所から始まったか。
思わず腕組みをして眼下を眺めまわす。
茶店の縁台で五平餅と団子を食べる。
落語には茶店がよく登場するのでお誂え向きの休みどころだ。
バス乗り放題なのだが時間がないのでホテルにチェックインして夜に備える。

落語といえば舞台の真ん中の座布団に一人座り、お喋りするだけの芸である。
共演者も舞台装置も音響も照明もほとんどなく、たった一人のお喋りでお客をどんな世界へも連れて行ってくれる。
まさに観客のイマジネーションを見事に引き出してくれる世界に類を見ない芸なのだ。

「分枝、志の輔 春待ち二人会」
会場は有名な建築家の安藤忠雄さん設計の「長良川国際会議場メインホール」で行われた。
落語というよりクラシックコンサートを聴きに・・・という雰囲気の名前とモダンな建物だった。
満員の客席。
幕が開けが広い舞台に座布団が一枚だけ。
やっぱりコンサートではなく落語だった!
 〔演目〕
  だくだく    立川志の輔
  華麗なる同窓会 桂 分枝
 〔中入り〕
  相部屋     桂 分枝
  しじみ売り   立川 志の輔
志の輔はおなじみの滑稽話で笑わせ、人情噺はしんみりと期待通りに聞かせてくれた。
分枝は最近転んでケガをした話をまくらでする。
「新婚さんいらっしゃい」で桂三枝の頃、椅子から横に転んでばかりいて慣れていたはずなのに縦は・・・(爆笑)
その後の創作落語で、さすが会場を沸かせた。
帰りのバスは心が温かくなった超満員の人を乗せて出発。
アハハ!みんな顔が緩んでいる。

ホテル近くのおでん屋で熱燗をゆっくり傾けおじさんの追っかけ旅の夜は更けていった。