木登りの樹


子供の頃、木登りが大好きだった。
友達仲間の間でも一番好きだった。
少し大きくなって友達は登らなくなったが
僕はまだ木登りが大好きだった。
登る木も好みがあって、杉や檜や松や銀杏は
あまり登らなかった。
楠や欅や楓や桜がお好みだった。
枝が不規則に付いていたり、横に曲がって伸びていたり
コマーシャルで「♪この木何の木気になる木」を見るたび こんな木に登ってみたいと思っていた。



時は移り、もう木には登れなくなったが
「あの枝に足をかけ斜め上の枝に手を伸ばし・・・あの梢まで登れるな・・・」
などと今でも好みの木を見つけると血が騒ぐ。 


僕の散歩コースにお気に入りの大きな榎(えのき)があり、大きさ、風格、枝ぶりの妙など実に美しい。
落葉樹なので若葉の季節が待ち遠しい。
その大榎に出会って40年、人は老いるというのに 大榎は見た目はほとんど変わらない。
子供たちが登ったであろう泥跡を見ると嬉しくなる。
その子供たちもいつかここへ帰ってきて僕のように 懐かしく思うのだろうか。