「銀座あけぼの」の缶

 

藤沢の鈴木さんはいつもジョギングで店に現れる。
山歩きが好きな、カッコいい女性だ。
山でお茶を点てるのが楽しみな彼女からの依頼で茶筅筒を竹で編んでほしいと頼まれる。

道具を入れる茶箱はブリキ製で織部風のモダンなデザインがほどこされていた。
「銀座 曙」の文字も見える。どうやら「あけぼの」が昔作らせたものらしい。

お断りするつもりが茶箱を見てデザインに魅せられたのと、彼女の熱意につい引き受け
てしまった。

鈴木さんの話では、彼女のお香の沼田先生がご自分のセンスで茶箱として愛用されて
いたとのこと。
「鈴木さんがずーっと欲しそうな顔をしていたんでしょう」
「図星!」

「あけぼの」に問い合わせたところ、丁寧な礼状が届いたそうだ。
解ったことは
 昭和40年代後半ごろ「味季寄」という進物用のパッケージで染色家の小林今日子先生の
デザイン、陶器の織部模様をモチーフにされたものだそうだ。

沼田先生と鈴木さんと僕とに感動を与えた「あけぼの」の菓子缶はいったい世の中にどの位
残っているのかなあ。

大切な写真や手紙や........へそくりが。