石を売る



よく行くお店の素敵な女性から「ドアストッパーを作って」と頼まれる。
「どんなものですか?」と尋ねると「石を竹か何かで編み付け、開けたドアに置いて閉まらないようにする重し」とのこと。
面白そうなので引き受けることに。
数日後「由比ヶ浜を散歩しながら気に入った石を見つけました」といって石が持ち込まれる。
床や壁の色などを聞いて、山葡萄の皮で編むことにした。
この素材なら手触りが優しく触るごとにツヤが出てきて部屋に馴染むと思った。
作り始めて気がついた。
だいたいカゴというのは軽いということが特徴なのだけど 出来上がった「ドアストッパー」は小さくてもこの重さが・・・ たまりません!
つい触ってみたくなる。
なんだか分からないが創作意欲が湧き上がる。
「そうだ、いくつか作ってみよう」
時間を見つけて海岸に石探しに出かける。
石の形や色にイメージを膨らませ探すことは時間を忘れるほど楽しい。

あれ?これ・・・、なんか、思い出したぞ。
つげ義治のマンガ「石を売る」(1985年コミックばく掲載)というやつだ。
竹中直人が監督主演した「無能の人」(1991年)にも出てくる。
正にその主人公みたいだ。
本も持ってるし映画も見た。
内容は、多摩川の河原で石を見つけ「孤舟」「雲」「風」「後悔」などと名前をつけて売っている。
社会から落ちこぼれた家族。
全く売れないのに夢ばかり追っている生活力のない男と呆れて馬鹿にしながら寄り添う妻とのうら悲しいヒューマンコメディ。

「ハハハ・・・、面白い! 作ってみようじゃないか、オレ売れなくったって良いんだもん」
鎌倉の「無能の人」は砂浜でひたすら石を探し続けるのであった。

出来上がったドアストッパーはとても気に入ってくれた。
「若い女性の発想にはとても刺激を受ける」と感謝を述べると
「あら、私若くないのよ、孫もいてよ」
「ええ!」
「アハハ、いつもマスクしてるからね・・・。これから取れないわ」
いやあ、参った!


注文で作った山葡萄のドアストッパー

「まあ、遊び、遊び!」
とにかく店に並べてみよう。
ひょっとして売れるかも・・・。
淡い望みを鎌倉の「無能の人」は抱くのであった。



左から白竹、つづらふじ、虎竹、山葡萄の皮、くるみの皮で編む